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高知地方裁判所 昭和35年(ヨ)246号 決定 1961年1月28日

申請人 金星製紙株式会社

被申請人 紙パ労連金星製紙労働組合

主文

本件申請はいずれもこれを却下する。

申請費用は、申請人の負担とする。

理由

第一、当事者の求める裁判

申請人は、

一、別紙目録及び図面表示の土地にたいする被申請人の占有を解き、申請人の委任する高知地方裁判所執行吏の保管に移す。

二、被申請人は、右土地上に構築した木柵一個を直ちに除去しなければならない。

三、被申請人が右物件を除去しないときは、前記執行吏において、これを除去することができる。

四、被申請人が、右土地内に立入り、高知地方裁判所昭和三五年(ヨ)第二〇六号立入禁止等仮処分申請事件について、同裁判所がなした仮処分命令に違反し、同土地に木柵等の妨害物を自ら設置し、又は第三者をして設置せしめ、或は組合員又は第三者を以てスクラムを組むなどして原材料、燃料の搬入、製品の搬出又は人の出入を実力を以て妨害したときは、前記執行吏はこれを排除するため適当な処置をすることができる。

五、被申請人は、その組合員及び支援の第三者を右土地内に立入らせてはならない。

六、前記執行吏は、申請人の申出により、申請人会社役員被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社従業員及び申請人会社と商取引関係にたつ第三者が右土地に立入り、又は右土地を通過して原材料、燃料、製品の搬出入を為すことを許すことができる。

七、執行吏は前記各項を公示するため適当の措置をとることができる。

との裁判を求め、被申請人は、本件申請を却下する旨の決定を求めた。

第二、当事者双方の提出した疎明資料により当裁判所の認める事実関係ならびにこれに基く判断は次のとおり。

一、申請人(以下会社という。)の従業員約二六〇名のうち約七〇名によつて結成される被申請人(以下第一組合という。)は、昭和三五年六月一日会社との間に締結されたユニオンシヨツプ協定の履行を要求し、この要求遂行のため、同年一〇月三一日会社が株式会社四国銀行から借受けている高知工場内においてストライキを行い、これに対し会社は同年一一月一日第一組合員に対し、ロツクアウトを通告するとともに、高知工場内にいた第一組合員に対し、高知工場正門外への退去を求め、或はスクラムを組むなどの方法により第一組合員を同工場正門外に退去させた。

二、第一組合員は、会社の前記ロツクアウトにより同工場正門外に退去すると同時に、会社が株式会社四国銀行から借受け、工場唯一の出入口として使用(占有)中の別紙目録及び図面表示の土地(高知工場正門及び通用門前、以下本件土地という)及び附近公道において、外部支援団体を交え、常時数名ないし数十名がピケツトをし、会社役員及び第一組合員以外の会社従業員(以下第二組合員という。)の出入、及び原材料、製品などの搬出入の阻止をはかつている。その状況についてみるに、

(一)  昭和三五年一一月一九日頃本件土地のうち会社正門前と通用門前に丸太角材を組合せ有刺鉄線を張りめぐらした木柵(バリケード)二個(正門前に設置してあつたものは長さ約四米、高さ約二米通用門前に設置してあるものは長さ約二米、高さ約二米)を設置(たゞし移動可能なもの)し、正門及び通用門の出入口を閉塞し、

(二)  同年一二月一五日頃には右木柵内部にドラム罐に生セメントを流しこんで固めたローラー様の重量物一個を置き、

(三)  同月二六日頃には、右木柵前に木材とトタン板を組み合せて作つた小屋類似のもの一個を設置し、

(四)  昭和三六年一月一七日頃までは、会社役員及び第二組合員の出入、ならびに原材料製品などの搬出入については、右障害物を背景に第一組合がスクラムを組むなどして、これを阻止し、通常一時間ないし五時間にわたる説得をし、なお出入を断念しない場合、右障害物を移動して通行させ、通行後障害物を原状にもどし正門及び通用門からの出入口を閉塞し、

(五)  昭和三六年一月一八日会社によつて、前記正門前の木柵一個、セメント詰めドラム罐一個、トタン張小屋などが除去されたゝめ、その後は説得などによつて原材料製品などの搬出入を阻止し、または、通用門前の木柵を背景として、説得により会社役員及び第二組合員の出入を阻止している、

等の事実を認めることができる。

三、申請趣旨第一項及び第五項ないし第七項について、

前記認定の事実によれば、第一組合員は、ロツクアウト後本件土地を占有し、前記二、(五)の妨害物撤去後も、その占有を継続しているものというべく、他面会社は本件土地の占有を失つたものと認められる(現在会社役員及び第二組合員の出入、ならびに原材料、製品などの搬出入は、第一組合員の本件土地に対する支配ないし管理の状態において行われるものでこれをもつて会社にも占有があると認めることはできない。)。そこで、本件土地に対する第一組合員の占有は、ロツクアウト前に会社の有した本件土地に対する占有を侵奪したものであるかどうかについて判断する。

被申請人は、第一組合員は会社従業員として、争議前から会社と共に本件土地を占有しており、その占有が現在まで継続している(本件土地はロツクアウトによる立入禁止の区域外にあるから)と主張するが、会社従業員は、その地位に基いて、会社業務の遂行上、会社の機関として会社の支配する土地、建物などを所持するに過ぎず、この場合従業員は独立の占有者でなく、会社が独立の占有者たる地位を有するものと考えられる。従つて占有の機関たる第一組合員は、争議前本件土地を占有していたものとは認められない。そして、前記認定によれば、会社は、その意思に基かずにロツクアウト後本件土地に対する占有を、第一組合員によつて奪われた(ロツクアウトにより正門外への退去を求めることは直ちに正門外たる本件土地の占有権を第一組合員に譲渡したことにはならない。)ものと認めるのが相当である。ところで申請人は、本件土地に対する占有が奪われたことを理由に同土地の回収の保全として執行吏保管を求めるが、本件土地は、第一組合員のピケツトの唯一の地点であり、現在も会社従業員たる地位にある第一組合員の占有を奪うことは、同組合員の争議権の行使を不能若しくは著しく困難ならしめる結果を招来させること明らかであり、かつ前記認定の事情からすれば、現在これを認める必要性もないと考えられる。よつて申請趣旨第一項及び本件土地に対する執行吏保管を前提とする同第六項及び第七項、ならびに右判断と同一理由により同第五項はいずれもその必要がないからこれを却下する。

四、申請趣旨第二、三項について、

第一組合員が現在本件土地に木柵一個(通用門前に設置され長さ約二米高さ約二米のもの)を設置し、これを背景に会社役員及び第二組合員に対し説得を行つていることは前記認定のとおりである。第一組合員が、争議手段としてピケツトをし、会社役員及び第二組合員の出入、ならびに原材料、製品などの搬出入を阻止するため、平和的説得をすることは、もとより、労働者に与えられた争議手段として適法であることはいうまでもない。しかしながら、右にいう平和的説得は実力による阻止にいたらないものでなければならないこと勿論であり、阻止するため、物的障害物を設置し、或は説得の手段として、障害物を設置することは、一応適法なピケツトの範囲を逸脱したものといわなければならない。以上の見地からして、現在会社通用門前に設置された木柵一個はピケツトの方法として、妥当なものとは認められないが、前記認定のように現在本件土地には右木柵のほか妨害物はなく、会社の原材料、製品は正門から搬出され、会社役員及び第二組合員の出入も正門から可能である点を考慮すると、直ちに右木柵の除去を認めるに足る必要性はないものと考えられる。従つてこの点に関する申請も却下すべきである。

五、申請趣旨第四項について、

申請人は、第一組合員による、本件土地に対する、将来の妨害物の設置又は人力による原材料、製品の搬出入ならびに人の出入妨害排除を求めているが、このような妨害排除をする権限を執行吏に包括して附与することは、執行吏の権限を不当に拡大する結果となり、さらに前記三、にのべたように第一組合員の争議権の行使を困難ならしめるものというべく、前記認定事実からして、現在これを認める必要性がないと考えられる。

第三、よつて本件仮処分申請は、いずれも、その必要性を欠くものとして却下することゝし、申請費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、申請人に負担させることゝし、主文のとおり決定する。

(裁判官 合田得太郎 島崎三郎 加藤義則)

(別紙省略)

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